「病院を見えない敵から守る」感染管理認定看護師が語る、キャリアの選択と働きがい
感染管理室 感染管理認定看護師 岡田 勇治
看護師歴21年目(2025年10月時点)
2021/4/1年入職
感染管理の専従看護師として、院内の感染管理や啓発、環境改善に携わる。前職では手術室看護師として活躍したことで感染管理に興味を持つ。
患者さまを感染から守り抜く!感染管理認定看護師の仕事とは?
― 感染管理認定看護師の役割とは?
岡田 認定看護師には「実践・指導・相談」という三つの役割があります。感染管理では直接患者さんに処置を行う「実践」は少なく、スタッフへの「指導」と「相談」が中心です。例えば「この患者さんの感染リスクを下げるにはどうしたらいいか?」といった相談を受けたり、病棟のスタッフに正しい手指衛生や物品の使用方法を指導したりします。病院全体で感染対策を広げていくことが、大きな役割です。
― 具体的にはどんな業務をしているのですか?
岡田 毎月、耐性菌の検出状況や血流感染・尿路感染などの発生状況を調べています。例えば、中心静脈カテーテルを入れている患者さんで感染が起きていないか、バルーンカテーテルを使っている患者さんに尿路感染が起きていないかを確認します。その数を病棟ごとに把握し、全国データと比較しながら分析します。
病棟ラウンドも大切な業務です。スタッフの手洗いや物品の清潔保持を見て回り、必要に応じて写真を撮り「ここは改善した方がいい」と具体的にフィードバックします。例えば「手袋をはめる前に手指消毒ができていませんでした」「この環境は清掃の工夫で改善できます」といった具合です。
また、アルコール手指消毒液の使用量を個人ごとにチェックし、あまり使用できていないスタッフには声をかけます。単に注意するのではなく「こうすると患者さんを守れるんですよ」と伝えるように心がけています。
― 仕事の流れを教えてください。
岡田 毎日決まったスケジュールがあるわけではありません。例えば月初めは検査室から耐性菌の検出結果が届くので、それを一つひとつ確認し「この患者さんは感染例にあたるかどうか」を判断します。
日常的には、感染リスクのある菌が検出されたと連絡を受けると、その患者さんのもとにラウンドへ行き、現場で直接確認します。また、週ごとに「抗菌薬適正使用(AST)ラウンド」や「感染対策チーム(ICT)ラウンド」があり、医師・薬剤師・検査技師と連携して病棟を回ります。さらに、突発的な相談が入ることも多く、「今日はこういう1日だった」とは言えないほど多岐にわたります。

全職種が協力的、病院全体で感染対策に取り組める
― 認定を取得し、この分野を選んだ理由は?
岡田 看護師のキャリアを考えたときに「管理職として組織をまとめる道」と「専門分野でスペシャリストを目指す道」があると思いました。私は手術室勤務が長く、徹底的に清潔を保っても感染が起こる現実を目の当たりにし、「なぜなのか?」という疑問から微生物や免疫に関心を持ちました。その延長で「感染管理を専門にしたい」と思い、認定資格を取得しました。
― 桜十字病院を転職先に選んだ理由は?
岡田 前職では手術室勤務を続けながら感染管理を兼務していました。感染管理に“専従”として取り組める職場を探していたのがいちばんの理由です。加えて、家庭の事情で自宅から通いやすい病院を探していたこともありました。桜十字病院はその両方を満たしていたため、ここで働こうと決めました。
― 桜十字病院で働く魅力は?
岡田 他の病院と比べて、事務職を含めた全職種が協力的なところです。感染対策は看護部だけのものではなく、病院全体で取り組める環境だと感じます。また、社員食堂や制服の洗濯サービスなど、働きやすさを支える制度も整っています。さらに教育体制も強化中で、ラダー制度の確立によりキャリアアップの環境はより充実していくと思います。
― 感染管理認定看護師として大切にしていることは?
岡田 多職種との協力です。特に桜十字の清掃スタッフの方々は、他の病院では見たことがないくらい徹底して清掃をしてくださいます。環境整備は感染対策の基本であり、病棟スタッフだけでは到底実現できません。そうした「縁の下の力持ち」に感謝の気持ちを持ち続けることを大切にしています。
データを通して成果を実感できる仕事
― 桜十字病院で課題や壁に直面したことは?
岡田 もちろんたくさんあります。入職当初は物品の清潔管理が徹底されていないと感じる場面もありました。そうした点を何度も伝えて改善を重ね、今ではずいぶん意識が変わったと思います。
最も大きな壁はコロナ禍です。流行当初は情報が定まらず、必要な防護具も不確定でした。そこで信頼できる情報を少しずつ集めてスライドを作り、繰り返し演習を行いました。その結果、防護具を正しく着脱できる職員が増え、N95マスクの正しい装着も定着しました。
当時は「患者さんに使った物はどう処理するのか?」「家族が感染したらどうすれば?」など、細かな相談がひっきりなしに寄せられました。電話が鳴りやまず、充電がすぐ切れるほどでした。大変でしたが、病院全体が一丸となって乗り越えられた経験は今も自信になっています。
― 感染管理認定看護師としてのやりがいは?
岡田 やはりデータで成果が見えることです。感染が減れば、対策が効果を上げていると実感できますし、アルコール手指消毒の使用量が増えると感染が減るという結果が出ると「声かけしてよかった」と思えます。努力が数字に反映されるのは大きなやりがいです。
認定取得で世界が一気に広がった
― 今後取り組みたいことや目標はありますか?
岡田 感染管理に関心を持つ仲間を増やしたいです。各病棟に「リンクスタッフ」という担当者がいて、月1回の会議や個別教育を通して知識を広めています。その中から認定看護師を目指す人が出てきてくれることを期待しています。さらに、グループの施設に行き、地域全体の感染対策を高める取り組みも進めています。
― 認定看護師を目指す方へメッセージをお願いします。
岡田 認定教育課程に行くと、自分の病院しか知らなかった世界が一気に広がります。多様な病院の現状を知り、視野が広がることは大きな財産です。取得後も自分の専門分野で働けるようになり、私は震災の避難所での感染対策や高齢者施設への指導など、幅広い経験ができました。
資格取得は簡単ではありませんが、それ以上に得られるものが大きいです。もし挑戦を迷っている方がいたら、ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います。桜十字病院は、挑戦する人を支える環境があります。一緒に学び、成長していける仲間が増えることを楽しみにしています。
