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「生きるを満たす」を支える

当院の呼吸器内科を立ち上げ、スタートから4年で人工呼吸器離脱率60%を達成。慢性期医療学会で発表すると反響を呼び、全国からの見学が相次ぎました。そして2015年には口から食べるプロジェクトをスタート。いずれも当院がコンセプトとして掲げている「生きるを満たす」の柱となる、全人的な医療を根底とした取り組みです。これらのプロジェクトを立ち上げから形づくってきた、安田先生にお話を伺います。

呼吸器内科医長・口から食べるプロジェクト マネージングドクター 安田 広樹

急性期病院、緩和ケアを経て2007年より当院に着任。当初より呼吸器内科医として人工呼吸器離脱に取り組む。2015年にスタートした「口から食べるプロジェクト」では、メインメンバーとして立ち上げから携わっている。

 

人工呼吸器離脱率60%の裏側

人工呼吸器離脱の始まりは?

2007年、当院に着任して間もないころに、当時理事長代理だった現理事長に「人工呼吸器の患者さんを受け入れたい」と言われたんです。近隣には、大型の急性期病院が多数。しかし、人工呼吸器を集中的に診る病院は少なかった。地域的なニーズがあったんですね。当院は2006年まで、全病床が療養病床という療養病院でしたが、一部を一般病棟に転換して呼吸器病棟を立ち上げました。

療養病院で人工呼吸器がたくさん稼働するイメージって、あまりありませんが…

本当に手探りでした。スタート当初、当院で稼働していた人工呼吸器は1~2台。現場では実際に呼吸器を見たこともさわったこともないというスタッフは少なくなく、生命を維持する機械を操作する恐怖もありました。

そこから「離脱」という方向に向かうには、相当な苦労があったのではないでしょうか。

理論的には、自発呼吸のない方でない限りは離脱できるはずなんです。ケア次第では自力で呼吸ができる可能性のある方に人工呼吸器をつけ続けるのは良いことなのか?という疑問と、目の前の患者さんは、「患者」である前に「人」である、という思いがありました。人工呼吸器を外せば行動の範囲が広がります。ご家族と散歩にだって行ける。病室から外に出れば、変化や楽しいことも感じてもらえるかもしれない。せっかく関わった患者さんに、少しでもよい方向に進んでいただきたい、という思いでした。

スタッフはどんな反応でしたか?

人工呼吸器は24時間管理が必要で、気が抜けません。ただ人工呼吸器をつけ続け、アラームに対処し続けるだけでは、スタッフが燃え尽きてしまう。しかし、目標を立ててしっかり取り組むと、患者さんに変化が起こります。ときには、想像していた以上の変化が起こる方もいて、患者さんやご家族の方がとても喜ばれるんです。こういった変化と喜びは、コメディカルのスタッフの喜びにもつながっています。「この方がご家族と散歩できたら」「起きて食事ができたら」と、どんどん取り組みが広がりました。

クチタベにも通じるものがありますね。

その通りです。人工呼吸器を外す、口から食べられるようにする。それが達成されれば終わり、ではありません。患者さんには生活があり、家庭があります。退院した先で、その方の人生をいかに過ごしていただくか。患者さんとそのご家族の方にこれからの人生があることは、何歳になっても、どんな状態であっても変わりません。可能な限り、少しでもより良い状態に回復していただけるようサポートをしたいですね。

 

チーム医療のあり方とは?

先生はチーム医療を大切にしていますね。

まず、医師が中心になりすぎないようにしています。実際に長い時間を臨床で患者さまに関わるのは、コメディカルです。専門職の視点で「これができるようになったら、次はこういうアプローチをすればもっと良くなるのでは」、といった仮説を臨床の場で考えられるはずです。主治医の指示待ちになっていては、せっかく患者さんが次に進むチャンスがあるのに、治療が進まない。自分たちのプロフェッショナリティを信じ、根拠を持って方向性を考え、主治医に提案・相談してもらいたいなと思います。

それは実現できていますか?

自分たちが正しくアプローチを行えば良くなる患者さんがいるということを理解しているし、技術的にも随分習熟してきたと思います。現場にいると「先生、この方の人工呼吸器はいつ外すんですか?」「リハビリと計画を立てたので入浴にトライしたいんですが」と前向きな言葉が飛んできます。実際に、患者さんのために体を動かして、考えてくれているからだと思います。患者さんが入院されると必ず多職種でカンファレンスを行うんですが、カンファが終わって私がその場を離れたあと、コメディカルが集まって話し合っている様子が好きなんです。そこで出てきた課題に対して、皆がそれぞれの専門性からどうしようと考えている姿だからですね。

 

安田先生についてお尋ねします!

なぜ医師の道へ?

小さいころ、近所にあったクリニックが好きでよく遊びに行っているうちに、医師になりたいと思うようになりました。特に家族に医師がいたとかそういうこともなかったんですが…。中学校の卒業アルバムにはすでに「医者になりたい」と書いていました。人の役に立ちたいという思いがあったんだと思います。

それが今につながっているんですね。

そうかもしれません。私が大学に入った頃は急性期病院が医療の中心だったので、臓器別の医療が主流だったんですが、臓器を見ても、患者さんの状況は見えてこないことがジレンマでした。それがあって心療内科や緩和ケアにも携わったりしましたが、今、やりたかったことに近づけているかなと思います。

やりがいを教えていただけますか?

患者さんが元気になって、喜んでもらえること。職務上のことをしているだけなのに、これほど感謝される仕事ってそんなに多くはないと思うんです。それをさせてもらえているのは幸せだなと感じます。

 

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