口から食べるプロジェクト
「口から食べるプロジェクト」のはじまりは?
口から食べる大切さ
「口から食べる」ことは、生きていくために欠かせない栄養補給である以上に、日常に喜びや満足感を与えてくれる営みの1つです。そのため、食べる楽しみは、ときに「生きる楽しみ」になり得るほどの力を持っています。さらに、口から食べることは自立した・自分らしい生活を送るうえで欠かせない要素の1つでもあり、とても重要な役割を担っています。
食べる喜びや楽しみを支えたい
しかしながら、高齢化の進行に伴い、経管栄養を余儀なくされている患者さまは増えているのが現状です。このような状況を踏まえ、当院は口から食べられなくなった方やムセやすくなった方に、食べる喜びや楽しみを取り戻していただき、自分らしい生活を送っていただきたいと「口から食べるプロジェクト(以下、クチタベ)」を始めました。
評価→実践で進むクチタベ
患者さまの強み・弱みをKTバランスチャートで評価
桜十字のクチタベは、評価→実践のステップで進んでいきます。
「食べられるか、食べられないか」ではなく、「どうすれば安全に食べられるか」を見つけることが、評価する際の合言葉です。当院では、医師・看護師・リハビリスタッフなど多職種からなるチームで、KTバランスチャートの13項目を1つずつ評価していきます。食べられなくなった原因は何か。患者さま一人ひとりの問題を見える化することで、患者さまに合った改善プランを作成します。
多職種で口から食べるを実践
プランが作成されたら、食べるための基礎づくりと、口から食べる実践を始めていきます。例えば、「食べられる口」を作るために、歯科衛生士が口腔ケアに入ったり、食事の姿勢を維持できる身体づくりのために、離床やリハビリを積極的に実施したりしています。また、活動量を増やし、「お腹がすく」という感覚も呼び戻していきます。
このような食べるための基礎づくりと並行して、毎日の食事で口から食べる練習を行っていきます。食べることに集中できる環境や安全に食べられる姿勢に配慮し、患者さまの「利き手」になりきって食事介助を行います。少し食べられるようになったら、もう少しと食事の量や形態を変え、患者さま・ご家族が望んでいる目標に向けてステップアップしていきます。
鍵は多職種による包括的なアプローチ
なぜチームアプローチが必要なのか?
口から食べるためには、食べ物を認識し、咀しゃくし、喉へ送り込み、飲み込むという動作が必要となります。しかし、これらの動作は連鎖しているため、認識ができなかったり、噛むことができなかったりすることで一連の動作が止まってしまいます。そのため、どこが原因で動作が止まっているかを探しださなければなりません。また、一つひとつの動作自体もさまざまな要因の影響を受けるため、なぜうまく機能していないかを一人の医療者だけで見つけ出すのは非常に困難です。そこで、重要となってくるのが、多職種による包括的なアプローチです。
幅広い視点で改善案を
患者さまの状態を評価する際に、認知症だから食事中に手遊びをしてしまうと断定するのではなく、薬剤師の視点をもって薬の影響を指摘する。また、リハビリの観点から活動量を増やすことで、食欲の増加、食事への集中に繋がらないかを提案する。このような多角的・専門的な視点から患者さまの状態を評価し、「どうすれば食べられるか」を考えることで、包括的なプランを作成することが可能となります。
専門性を活かして
同じように、実践の場面でも多職種の力が必要不可欠です。例えば、食事中の様子から、歯科衛生士が入れ歯や噛み合わせの問題を指摘する。また、作業療法士が食事をうまく口に運ぶためのコツを提案する。このように、各分野のプロだからこそ気づけることがあります。クチタベには様々な角度から患者さまの問題を見つけ出し、解決に向けたアプローチを行うスペシャリストがいます。各分野のプロが専門性を発揮し、チームとして連携を図ることが、より効果的なケアを行う上で欠かせません。
病院全体での取り組み
クチタベに参加するには?
クチタベは、病院全体を挙げての取り組みです。つまり、桜十字病院で働く=口から食べるプロジェクトの一員となります。そのため、クチタベ研修は全職員を対象に行われており、どのような環境・姿勢なら患者さまが食べることに集中できるか、食べやすいかを実技研修で学びます。特に、食事介助の方法に関しては、立ち位置からスプーンの角度、声掛けの内容にテンポにいたるまで細部にわたって研修が行われます。食事は毎日のことです。日々の食事介助を患者さまに寄り添った方法で行うことが、患者さまの「口から食べる」を支える土台となります。
患者さんとクチタベの架け橋に
さらに、NSTリンクスタッフとしてプロジェクトにより深く関わる道もあります。リンクスタッフの魅力は、クチタベ入院の患者さんはもちろん、「口から食べたい」と感じている患者さまと口から食べるプロジェクトチームの架け橋として働くことができるところです。どのように口から食べるプロジェクトに関わるか。自分にあったキャリア形成を行うことが可能です。
クチタベの魅力
患者さまの生き方をサポート
「誤嚥性肺炎を発症するため、食べないでください」。このような診断を受けた患者さまの「もう一度食べたい」という希望や、ご家族の方々の「もう一度食べさせてあげたい」という思いを尊重することができること。また、患者さまの人としての尊厳を大切にできること。それが、クチタベの魅力です。
日々の変化が喜びへ
入院初日に口から食べることができる患者さまもいらっしゃれば、再び食べられるようになるまでに、多くの時間を必要とする患者さまもいらっしゃいます。たとえ時間がかかっても、小さなステップを重ねながら「口から食べる」を目指していきます。食べる意欲のなかった患者さまが、食べようとし始めた。欠食状態から、ゼリー、ミキサー食が食べられるようになった。食事介助の必要度が低くなった。このような変化は、体重や検査結果の数値だけに注目したケアをしていては、得られない変化です。患者さまに日々向き合うからこそ感じられる喜びがあり、患者さまやご家族の笑顔に出会えることが、クチタベのやりがいに繋がっています。
口から食べるプロジェクトに専門職として関わる