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人工呼吸器離脱

 

60%を超える人工呼吸器離脱率

人工呼吸器離脱とは、患者さまが人工呼吸器を外して完全に自発呼吸のみで生活できるようにすること。総病床数630床の当院では平均30台の人工呼吸器が稼働しており、そのうち約半数が呼吸器病棟に集中しています。2009年から2019年度までの症例数は、151件。うち92件が人工呼吸器離脱を達成し、常に60%超の離脱率をキープしています。なぜ高い離脱率を実現できているのか? その秘密に迫ります!

 

人工呼吸器離脱に積極的に取り組む理由とは?

QOLの向上、そして生活支援

人工呼吸器をつけた状態では、ベッドを出て動き回ることはできません。しかし、人工呼吸器を外せば、活動の範囲は広がります。寝たきりの状態から、起きて活動できる入院生活へとシフトすれば、QOLは劇的に変化します。そうすると、ケアを提供する医療者も、起きて過ごしていらっしゃる患者さまのイメージに合わせてプランをつくり、リハビリ、そして生活支援へとシフトしていくことができます。人工呼吸器離脱は、患者さまが自分らしい過ごし方を取り戻すための第一歩となっているのです。

 

人工呼吸器を離脱するには?

「引き算」の医療

急性期では、生命の維持が最重要課題のため、あらゆる手が尽くされています。しかし、当院にいらっしゃったときには、膠着または安定した状態になっています。患者さまの状態が改善へと向かうためには、急性期での治療をそのまま引き継ぐのではなく、改めて治療方針を検討する必要があります。投薬と栄養を見直し、看護計画を立てて生活サイクルをつくり、リハビリを開始します。特に薬剤は副作用を防止するため、可能な限り減らします。投薬の整理を行った結果、16種類の薬を4種類に減らした例もありました。

「人工呼吸器離脱したら治療終了」ではない

患者さまには生活があり、家庭があり、職場があります。患者さま本人が病気を発症する前の生活に、可能な限り戻すこと。その視点で、患者さまの「その後」を考えた目標を設定し、治療計画を立てます。

「お父さんが歩いて退院する姿を見せられないか」

「その後」を考えた目標を実現した患者さまの例です。その方は四肢麻痺があり、完全介護状態で入院されました。重度のギランバレー症候群で、入院時には発症から既に半年が経過。転院元の医療機関の見立ては「良くなって車椅子」とのことでした。しかし、その方は小さな子どもさんのいらっしゃる、働き盛りの30代。「子どもさんにお父さんが歩いて退院する姿を見せられないか」と考えました。「機能が回復しない別の原因はないか」と探り、栄養状態の改善に着手すると、ウィーニング実施1か月後には完全に人工呼吸器を外して生活できるように。胃ろうから自力経口摂取へ移行し、自立歩行ができるまで回復。入院から4か月後には元気な姿で自宅へと退院されました。

 

離脱率60%の秘訣とは?

ウィーニング実施率100%

呼吸器病棟では、自発呼吸のない方も看護師二人体制でアンビューに切り替え、ウィーニングを実施しています。なぜそこまでするのか? それは人工呼吸器をつけた状態ではできないことがあるからです。例えば、お風呂。この病棟では、人工呼吸器をつけた方も全員が入浴しています。リハビリと看護師が綿密に計画を立てて万全の態勢で行い、患者さまお一人に二人の看護師が付きます。手厚い体制のため、一日にたくさんの患者さまの入浴を行うことはできませんが、入浴の実施日を増やして対応しています。

人工呼吸器の方も、万全を期した上でアンビューに付け替えて入浴を実施。「お風呂に入れるとは思わなかった」とお喜びの声をいただくことも。食事時、経管栄養の方であっても可能な限りの離床を行っている。

 

固定チームナーシング

そんな手厚い体制を支えているのが、固定チームナーシングの看護方式。呼吸器病棟の病床数は60床。3つのチームに分かれ、20床ずつを各チームでケアします。夜勤も各チームから担当を立て、一日を通して1つのチームが同じ患者さまを担当することで、一貫した看護が実現。スタッフが患者さまやご家族のことを把握できる規模を1チームで担当するこの方式に変えてから、患者さまへの理解が深まり、根拠あるきめ細やかなケアができるようになりました。

可能な限りの離床

臥床の状態では、横隔膜の上下運動がしづらく、呼吸が浅くなりがちです。呼吸筋が十分に運動できていない状態が続く「寝かせきり」は、廃用症候群による全身の筋力低下とともに呼吸筋の低下も招きます。このため、短時間からでも可能な限り離床を行います。当院では、離床パスを使用して、多職種で患者さまの状態を確認しながら取り組んでいます。例えば、2時間以上の離脱が可能な方には、離床プランを検討します。自然な状態では、横になった姿勢で食事をとることはありません。経管栄養の方も、車いすに座っていただいて経管栄養を実施します。経口摂取が可能な患者さまには食事中にウィーニングを行います。こうした取り組みを行うことで、呼吸状態や心肺機能の改善につながっていきます。

新人スタッフへのフォロー体制

はじめは「人工呼吸器に触れたことがない」「自分の行うことが患者さまの命に直結する」と恐怖を感じるスタッフがほとんど。この恐怖心の克服が、スタッフにとって最初の課題となります。しかし、最初から人工呼吸器離脱に触れることはありません。はじめは見学からスタートし、十分に実例を見て学びます。さらに、医師や呼吸器療法士による勉強会も開催し、人工呼吸器の取り扱いやバイタルサインへの対処など知識を得る機会を積極的に作っています。こうした準備と経験の積み重ねにより、的確な対処ができるスタッフへと成長していきます。

 

チーム医療のあり方

各職種の専門性を発揮したチームワーク

患者さまが人工呼吸器を外せないのは、1つの要因だけではありません。薬剤、栄養、生活リズム、身体の機能などさまざまな要因が組み合わさっており、それぞれの専門職が深い視点でアプローチをすることが大切です。そこで、多職種の連携をスムーズに行うため、カンファレンスを積極的に実施。患者さまに関わる全職種が参加し、情報共有と検討の場を設けています。また、患者さまへのアプローチをベストな状態で臨めるよう、多職種間の調整と協力を密に行なっています。例えば、体力を消耗する入浴後のタイミングを避けてリハビリが行えるよう調整したり、リハスタッフが栄養カンファレンスに出席するなど、職種間の連携を活発に行っています。

医師の指示待ちでは実現しない、積極的でタイムリーなアプローチ

人工呼吸器離脱を行う患者さまの主治医を務める呼吸器内科の安田先生は、チーム医療で大切にしていることとして「医師が中心にならないこと」を掲げています。臨床で患者さまに長い時間関わるのは、各分野のプロフェッショナルであるコメディカル。全ての決定を主治医任せにする指示待ちの姿勢では治療が進まず、大切なタイミングを逃してしまうことがあります。コメディカルが主体的に考え、多職種で連携を取りながら患者さまに向き合うことで、ニーズに即したアプローチが可能になります。

 

多職種が参加するリハカンファレンスの様子

大切にしていること

「できない」と決めつけない

人工呼吸器をつけていらっしゃるからと言って、医療者が「できない」と決めつけないようにしています。離脱にトライしない方も、アンビューに切り替えて座っていただいたり、食事やお風呂、ご家族との散歩など、さまざまな活動を行っています。ベッドに寝たままではなく起きて活動することは、QOLを大きく向上させるだけでなく、ご家族にとっても励みになります。患者さまの治ろうとする力をサポートし、どうすればできるかと考える姿勢が、医療者にとって大切すべきことだと考えます。

主体的に患者さまと関わり、患者さまと一緒に喜べる

人工呼吸器離脱に関わるコメディカルは、患者さまのためにできることを自分たちで考えて提案し、実践しています。医師は提案の根拠と方向性を確認してGOサインを出し、必要に応じてプランの修正やフォローを行います。患者さまやご家族との日々の関わりの中からさまざまなニーズをキャッチし、解決に向けて取り組みたいという姿勢を持つスタッフにとって、とてもやりがいが感じられる本プロジェクト。取り組みが実った結果を患者さまやご家族と一緒に喜べることが、スタッフにとっての喜びにもつながっています。

 

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