自動車運転再開支援
自動車運転再開支援のはじまりは?
「もう一度運転したい」をサポート
通勤・通学、買い物にレジャー。車は日常生活を送るうえで欠かせない移動手段の1つです。特に熊本は車社会なので、運転を禁止された生活は非常に不便を感じることでしょう。院内にある脳卒中リハビリセンターには、ご自宅で生活するためや会社に復帰するため、さらに趣味や休日を楽しむために運転再開を希望される患者さまが多くいらっしゃいます。当院では、このような患者さまの「もう一度運転したい」というニーズや思いをサポートするために、2017年より自動車運転再開支援をスタートしました。
自動車運転再開支援ってどんなことをするの?
運転再開支援は、院内にある脳卒中リハビリセンターが中心となって取り組んでいます。主に、退院後も車の運転を希望されている脳卒中の患者さまが対象です。脳卒中を発症された患者さまが運転を続けるためには、公安委員会の許可が必要です。公安が運転の可否を判断する際に必要な診断書を作成するための検査・評価を行い、検査結果から運転に必要な機能のリハビリを実施し、社会生活をスムーズに送るための支援まで行うことが桜十字の自動車運転再開支援です。
支援を始める前に
車は便利である一方で、第三者を巻き込む事故を起こす危険性を持ちあわせています。そのため、支援を始める前に、服用している薬が運転に影響がないか、患者さまの身体的状態は安全に運転できる状態かなどを医師が判断しています。
支援の流れ
医師より支援の許可が下りた患者さまに対して最初に行われるのが、リハビリスタッフによる面談です。免許証の種類や運転する目的・距離など支援に必要となる情報を確認していきます。その後、高次脳機能を検査する神経心理学的検査とドライブシミュレーターを用いた運転技能検査を実施し、運転能力を総合的に評価します。これらの院内評価の結果が当院の基準を満たした患者さまは、院外での評価に移ります。実際に車に乗っていただいてより実践的な運転能力を評価していきます(実車評価)。すべての検査・評価をもとに、免許センターの運転適性相談の際に必要となる診断書を作成。診断書作成後も、運転補助装置取付業者のご案内や相談などサポートを行っています。
桜十字の自動車運転再開支援の特徴は?
段階的・客観的な評価
当院では、段階的に・丁寧に評価をすることを重要視しています。神経心理学的検査では、運転に必要な機能である記憶力や注意力、さらに目的地へ到着するための計画性などを細かく評価し、数値化していきます。一定の高次脳機能障害が認められた患者さまは、機能改善を目的としたリハビリに、検査基準を満たした方はドライブシミュレーターを用いた運転技能検査に進みます。この検査では、認知・判断・操作などを5段階で見える化していきます。段階的に検査し、数値化して評価することで、患者さまに合ったリハビリを行うことが可能となっています。
積極的な実車評価
桜十字では、院内評価の基準を満たした全ての患者さまに一回以上の実車評価を行うようにしており、2019年度には64件の実車評価を行いました。患者さまの運転技能に合わせて、教習所内だけでなく、一般道路での実車評価にも対応し、より実践的な運転技術を確認していきます。さらに、ドライブレコーダーの記録を使ってフィードバックを行い、運転時の注意点を確認していきます。麻痺のある患者さまに対しては、運転補助装置の付いた車を使用して実車評価を行うので、退院後もスムーズに運転補助装置での運転を開始できます。
↑教習所の指導教官を交えた実車評価後のフィードバック。ドライブレコーダーを使って運転の様子を確認しています。
大切にしていることは?
運転免許制度を知ってもらう
道路交通法には、「一定の症状を呈する病気等」を対象に免許の停止・取り消しができる規定があり、脳卒中も対象の病気となっています。免許更新時には必ず病気の申告が必要となり、虚偽の申告には罰則が科せられます。また、更新前であっても未申告状態で事故を起こした場合、「危険運転致死傷罪」に問われる可能性も。さらに退院後、免許更新時に診断書の提出を求められた場合、数日間の通院が必要となったり、一時的な免許停止となったりします。これでは、仕事や生活に大きな支障をきたしてしまいます。そのため、患者さまに不利益が生じないように、免許制度について理解していただくことを大切にしています。
納得してもらうこと
患者さまの中には、重度の高次脳機能障害や、強い麻痺のために支援を中断しなければならない方もいらっしゃいます。車は便利な交通手段であると同時に、第三者を巻き込む事故とも隣り合わせです。運転能力に危険を伴う患者さまとご家族には、数値化された検査結果をもとに、説明を繰り返し行い運転の危険性を納得していただけるように取り組んでいます。
↑患者さま・ご家族との面談風景。資料を使って丁寧に説明していきます。
多職種での連携
支援のスタートには、医師、薬剤師、看護師が関わります。脳疾患の再発やてんかん、服用中の薬の影響などを確認し、支援開始できるかを判断します。支援が始まると、リハビリスタッフが中心となって検査やリハビリを行います。例えば、作業療法士が高次脳機能のリハビリを、言語聴覚士が失語症のリハビリを、理学療法士が移動のリハビリを行っています。
また、実車評価では外部指導員が運転技術の習得のサポートを行い、予約や運転補助器具の会社とのやり取りなどの連携業務には、ソーシャルワーカーが関わっています。このように、各分野のプロが関わることで、円滑なサポートが可能となっています。
自動車運転再開支援の魅力
運転からその先の生活も支援できる
車の運転には、通勤や買い物、趣味など目的が伴います。自動車運転再開支援をきっかけに、患者さまが退院してやりたいことや退院後やらなくてはいけないことを話してくださったりします。そのため、運転支援をすることによって、復職支援をはじめとする社会参加のための支援へと輪を広げていけることが魅力の1つです。
支援の窓口を広げることができる
当初、脳卒中の治療のために入院されている患者さまを支援の対象としてスタートしましたが、今では、久々の運転に不安を感じていらっしゃる患者さまなど、全病棟を対象として支援を行っています。また、自動車運転再開支援を目的とした入院も増加しており、支援を受けられた患者さまも年々増加しています。さらに現在、退院後に運転する必要が生じた患者さまへの支援を行う外来相談窓口を新しく設置しようと準備を進めています。このように、新しい取り組みを行いながら、支援の窓口を広げていけることも、自動車運転再開支援の魅力です。